ビジネスの場や目上の人との会話の中で「知りません」という言葉を使う場面ってありませんか?
何気なく「知りません」という言葉を使ってしまうかもしれませんが、表現方法としては合っているのでしょうか。
そんな本日は「知りません」を敬語や丁寧語で表現する場合やビジネスで使う場合の注意点について詳しくご紹介したいと思います。
「知りません」の意味や使い方は?
まず最初に「知りません」の意味や正しい使い方を見ていきましょう。
「知りません」という語句は、「知る」という動詞を丁寧に変える助動詞「ます」の未然形に、打ち消しの助動詞「ぬ(ん)」を接続した構成になっています。
丁寧な打ち消しの表現です。
「知りません」の「知」という漢字は会意文字です。
「矢」と「口」から構成されています。
「矢」は武器の矢であり、「口」は人を表します。
このため「人が矢をそえて祈り、神意を知る」という姿を示しているとされ、ここから「物事をしる」を意味するようになったといわれます。
「物事を知る」ことを丁寧に否定するのが「知りません」ですから、「(ある特定の)物事について知識がなく、分かりません」という意味を示すといえます。
「知りません」はこのように形態上は敬語であり、丁寧な表現なのですが、実際の会話の場面やビジネスシーンなどでは、実は使用があまり適切ではないようです。
例えば、他人から道などを尋ねられた際に「いえ、知りません」と答えると、かなり冷たい、ぞんざいな印象になるからです。
刑事ドラマでの取り調べシーンなどで、刑事から厳しく「身に覚えがあるだろ!」と問い詰められた容疑者が、「し、知りません」と答えるようなやり取りはしばしば目にしますが、日常の会話の場面では、気の置けない親しい関係でなければ、通常は「知りません」は使わない方が無難だといえるかもしれません。
「知りません」を敬語や丁寧語にすると?
「知りません」と同じ意味を示す、より丁寧で適切な表現にはどのようなものがあるのでしょうか。
例えば「存じません」や「分かりかねます」という言い方が挙げられます。
これらの語句ですと、ビジネスシーンや公の場でも、相手に失礼なく「知識を持ち合わせない」ことを表すことができます。
「存じません」は「存ずる」の丁寧な否定表現です。
「存ずる」は「知る」や「思う」の謙譲語で、現代では多く「ます」を伴った形で、聞き手に対して、改まった気持ちをこめて丁重に言うのに用いる言い方です。
さらにへりくだった意思を示したい場合には「存じ上げません」という言い方もあります。
「上げる」とはこの場合、「申す」、「存ずる」などに付いてへりくだった意味を強める言葉です。
また「分かりかねます」の「かねる」とは、他の動詞の連用形に付いて用いる言葉であり、「しようとして、できない」、「することがむずかしい」といった意味合いを示します。
「知りません」を単に「分かりません」と言い換えるだけでは、あまり差異がない、突き放したようなイメージを与えますが、「かねる」を挿入してへりくだった感じを強めることで丁寧な言い方となります。
「知りません」をビジネスで使う場合の注意点は?
最後に「知りません」をビジネスで使う場合の注意点をご紹介します。
ビジネスシーンでこれらの語句を使う場合は、使い分けに注意することが大切となります。
「存じ上げません」は前述のように謙譲の表現で、ビジネスでは最も使いやすい言葉だといえるでしょう。
ただし一般的には、「存じ上げません」は人物に関する事柄について言い表すことが多いといえます。
例えば、会社などで上司や目上の人に、ある人物の評価などを聞かれ、わからないことを伝えたい時は「申し訳ございませんが、Aさんの業績について詳しいことは存じ上げません」と答えるのが適切です。
あるいは、取引先などから「私の同期がA社の課長をしているのですが、ご存じですか」と聞かれた時にも「はい、よく存じ上げております」などと用います。
なお、相手に対して、ある物事を知っているか尋ねる場合は、謙譲表現ではなく尊敬表現を用いますので、「○○について、ご存じでしょうか」や「ご存じないですか」となります。
一方、物事、事実関係などに関して知見のないことを伝える際には、「存じません」や「分かりかねます」が適切となるでしょう。
いずれの場合でも、相手に失礼なく、またあまり失望感を与えないように答えることが大事になります。
このため、例えば「大変申し訳ありませんが、私は担当でないので詳しいことは分かりかねます。すぐに社内で調べ、担当の者から折り返しご回答申し上げます」などと、細やかにフォローすることも重要なビジネスマナーだといえるでしょう。
まとめ
いかがでしたでしょうか。
「知りません」を敬語や丁寧語で表現するとどうなるのか、そしてビジネスで使う場合の注意点について詳しくご紹介しました。
「知りません」について調べてみるとやはりビジネスの場で上司や目上の人に対して使うのは控えておいた方がいいでしょう。
第三者に対しても「知りません」という言葉だけを使うと冷たい印象を与えてしまうので「存じ上げません」などと表現するのがベストですね。
一見、敬語のように思えて、敬語ではない特殊な表現方法だと思います。