日々の生活の中で「おもむろに」という言葉を見聞きしたり、使ったりしますか?
「おもむろに」を漢字で書くと「徐に」と書きます。
「おもむろに」という表現にはどのような意味合いが込められているのでしょうか。
そんな本日は「おもむろに」の意味と正しい使い方、そして類語や例文、誤用について詳しく解説したいと思います。
「おもむろに」の意味と使い方は?
まず最初に「おもむろに」の意味と正しい使い方について見ていきましょう。
「おもむろに」という言葉は、後の文を修飾する副詞です。
「おもむろ」という名詞を形容動詞化した用法にもみえますが、一般的には「おもむろ」だけで使用することはありません。
また通常は「おもむろな」や「おもむろだ」のように活用することはありませんので、「おもむろに」という副詞として、人の動作を修飾する言い方だといえます。
冒頭でもご紹介しましたが「おもむろに」は、漢字では「徐に」と書きます。
「徐」という漢字は、会意兼形声文字です。
ぎょうにんべんと「余」という字から成り立っています。
ぎょうにんべんはもともと、「十字路の左半分」という意味があるとされます。
そして「余」は「先の鋭い除草具」を示すといわれます。
ここから「余」は「自由に伸びる、のびやか」といった意味を表します。
これらのことから「徐」という字は、元来は「のびやかな心で行く」、あるいは「ゆっくり行く」ということを意味する字です。
さらに転じて、現代では「ゆっくりと」や「ゆったりしたさま」という意味合いでも使われるようになっています。
一方、日本語の「おもむろに」は、古語の「おもぶるに」に由来しているとの説があります。
これは日本書紀にもみえる古い表現で、「物静かなさま」や「ゆったりしたさま」を示す言い方です。
この言葉が時代が下るにつれて音変化を起こし、「おもむろに」に転じていったとみられます。
そして、お互いが共通した意味合いを持つことから、「おもむろに」には「徐」という字が当てられたようです。
このように、「おもむろに」は「落ち着いて、ゆっくりと行動するさま」を表す副詞的な言い方です。
ただ単に「動きが遅い」ということではなく、「じっとしている状態から、ゆっくりと動作を始める」、あるいは「しばらく何もせず、その後何かの思惑をもって、徐々に行動を起こす」といったニュアンスがこもる言い方だともいえます。
「おもむろに」の類語と例文を教えて?
次に「おもむろに」の類語と例文について見ていきましょう。
「おもむろに」の類語としては、次のような言葉が挙げられます。
◆類語
- ゆっくり
- ゆるりと
- 遅遅と
- やおら
- 徐徐に
- のろのろと
- 悠悠と
- 悠然と
- そろそろと
- ぐずぐずと
- もたもたと
などがありますね。
「おもむろに」の例文としては次のようなものがあります。
◆例文
- 彼はしばらく瞑目していたが、目を開けるとおもむろに話を始めた。
- 熟睡しているのかと思った父が、おもむろに起き上がった。
- 私の足音が聞こえたのか、彼がおもむろに振り返った。
「おもむろに」の類語と例文についてご紹介しました。
「おもむろに」の誤用について教えて?
最後に「おもむろに」の誤用についてご紹介したいと思います。
「おもむろに」は前述のように、静かな状態からゆっくりと動き出すさまを表す言い方です。
ところが現在では、「おもむろに」が、「突然動き出す」や「不意に何かを行う」という意味合いで使われる場面を見聞きすることが多くなりました。
文化庁が最近、「国語に関する世論調査」で「おもむろに」の意味をどう認識しているか、一般の人に調査したところ、本来の意味である「ゆっくりと」と答えた人が44.5%だったのに対し、「不意に」という人が40.8%という結果になったそうです。
すでに正しい意味と誤用の意味とが拮抗する実態になっているわけです。
ただ年代別でみると、60代以上では「ゆっくりと」を選ぶ割合が高くなっていたそうです。
高齢世代が子供の頃には、「おもむろに」を「徐に」と漢字で習っていたため、漢字の印象から本来の意味で理解している人が多いとみられます。
「おもむろに」が「不意に」と誤用されるのは、「じっとした状態から動く」という意味の部分が「唐突感」につながるためかもしれません。
日本語では「従来から」(=言葉の重複)、「白羽の矢が立つ」(=本来は悪いことで選ばれる意味)のように、元の意味から離れたり、文法的に誤用のまま、使用が定着する言葉も増えてきています。
言葉とは生き物であり、使われながら時代とともに変化していく性質のものだといえるのかもしれません。
まとめ
いかがでしたでしょうか?
「おもむろに」の意味と正しい使い方、そして類語や例文、誤用について詳しくご紹介しました。
おさらいをすると「おもむろに」の意味は落ち着いてゆっくり行動をする様子のことを現します。
「おもむろに」を「不意に」と誤用しないように気をつけましょうね!