「失笑(しっしょう)」という言葉を見聞きしたことがあると思います。
使い方としては「失笑する」や「失笑を買う」といった表現方法がありますが一体、どんな意味合いなのでしょうか。
そんな本日は「失笑」の意味と正しい使い方、そして「苦笑」との違いと使い分け方について詳しく解説したいと思います。
「失笑」の意味と使い方は?
まず最初に「失笑」の意味と正しい使い方について見ていきましょう。
「失笑」という言葉は、「笑み」という名詞を「失う」という言葉で形容した名詞です。
「笑う」という感情表現についてのバリエーションを示す表現です。
「笑う」や「泣く」は人間の根本的な感情の発露ですが、程度によってさまざまな心情や思惑を示すことがあり、そこから多様な表現が派生しています。
「笑い」に関しては「失笑」のほか、「苦笑」、「冷笑」、「爆笑」などいろいろな種類があります。
「失笑」の「失」という漢字は、元来は「手」と「乙」という字から成る指事文字とされます。
「手」の象形と「手からそれた物を示す」字から構成されており、ここから「手から物が外れる」こと、すなわち「うしなう」ことを意味するようになったようです。
また「笑」という字は象形文字で、「髪を長くした若い巫女の象形」から「わらう」感情を示したとされます。
ただ「笑」には、「喜びやうれしさ、面白さの余り破顔する」という動作のほかに、「あざける」や「ばかにする」といった意味もあります。
このように「失笑」は「自分を失うような笑い」という意味が元来のニュアンスです。
このため本来は「相手の発言などがばかげたことだという感情から、思わず笑ってしまう」や「おかしさをこらえることができず、吹き出す」という意味になります。
すなわち「自分を抑えきれずつい笑ってしまう」という印象です。
ところが文化庁の「国語に関する世論調査」によると、「失笑」について、本来の「こらえ切れず吹き出す」という意味で使う人が27.7%、本来の意味ではない「笑いも出ないくらいあきれる」との意味で使う人が60.4%と、すでに原意が少数派になっているとの結果が出ました。
恐らくこれは、「笑う」の意味の一つである「あざける」といった趣旨に影響されたものと考えられます。
また「失笑」には「失笑を買う」といった表現があるため、「相手をばかにして薄ら笑いをする」といったイメージが強まったことも一因でしょう。
「失笑」と「苦笑」の違いと使い分け方は?
次に「失笑」と「苦笑」の違いと使い分けについて見ていきましょう。
では、「失笑」と類似した「笑い」の種類の表現である「苦笑」とは、どのような違いあるのでしょうか。
「苦笑」の「苦」は、会意文字であり形声文字でもあります。
「艸」と「古」という字から構成されており、それぞれの「並び生えた草」の象形と「固い兜」の象形から、「固い草」、すなわち「にがい草」を意味し、さらに転じて「にがい」や「くるしい」を意味するようになったようです。
つまり「苦笑」は「苦しい笑い」であり、「おもしろくはないが、おこるほどでもなく、笑って紛らすほか仕方がない」といった状況を示す言い方です。
言い換えると「苦笑い」であり、「財布を家に忘れたことに気づき、苦笑するしかなかった」といった用例になります。
一方「失笑」は、前述のように本来は「思わず吹き出す」という意味であり、そこには相手をさげすんだり、見下したりする感情は含まれていません。
むしろ、相手の馬鹿話を聞き「我慢しようとしたが、下らなくて思わず笑ってしまった」といった用例だといえます。
さげすみなどの意思がない点では「失笑」と「苦笑」は似ており、「その場を取り繕うような、やるせない笑い」が「苦笑」であり、「吹き出す笑い」が「失笑」だといえます。
ただ、前述のように「失笑」は現代では原意を離れ、多くの人が相手を見下すようなネガティブな笑いの表現として使用しているのが現状です。
「苦笑」もまた「愚かな言動に、苦笑を禁じ得ない」といった用例のように、徐々に元来の意味からそれ、さげすむニュアンスも持ち始めているといえるかもしれません。
言葉とは、使う人々の時代背景や社会的事情とともに変化が避けられないものです。
しかし本来は、相手を見下すような「笑い」は「嘲笑」や「冷笑」であり、「失笑」や「苦笑」にはそうした意味合いは含まなかったことは指摘しておきたいと思います。
「失笑」の類語と例文を教えて?
最後に「失笑」の類語と例文をご紹介したいと思います。
「失笑」の類語としては、前述のような元来の意味合いからすると「噴飯する」、「思わず笑う」、「吹き出す」、「仕方なく笑みをこぼす」といった表現となります。
ただし、すでに現在ではマイナスな意味合いに移行しており、そうした観点では「冷笑」、「皮肉な笑み」、「憫笑」、「嘲笑」、「含み笑い」、「薄ら笑い」といった言葉となるでしょう。
「失笑」の例文としては次のようなものが挙げられます。
「下手なあいさつをして、会場の失笑を買った」、「覚えたての落語を披露したのだが、お客さんは爆笑というより失笑していたよ」などです。
まとめ
いかがでしたでしょうか?
「失笑」の意味と正しい使い方、そして「苦笑」との違いや使い分け方について詳しくご紹介しました。
“笑い”に関しての表現方法はかなりたくさんあるので使い分けが難しいと思いますが、その場面にあった表現方法を選ぶようにしたいですね。
言葉のニュアンスが難しいと思いますが、その場合は是非、この記事を参考にしてください。